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2008年12月28日

《東方の学者たち》

説教者:
牧師 持田行人
聖書:
マタイ2:1〜12

降誕節第一主日、讃美歌103、114、120、交読文8(詩27篇)
聖書日課 イザヤ60:1〜6、マタイ2:?〜12、エフェソ3:2〜12、詩編27:1〜6、


クリスマス物語には、いろいろな人物が登場します。それぞれに最初の降誕を喜び、祝い、祝福に与ります。一つの出来事であっても多くの形の物語となり、伝えられてきました。それを説教で語ろうとするときは、もっとたくさんの形になります。

同じマタイ2:1以下を、24日の燭火礼拝で中谷先生に説教していただきました。初めておいでくださった方にも分かりやすく、光を中心にお話くださいました。その時、難しいことは省略、と言われて,東から来た学者たちはどのような人であったか、話されませんでした。幸いなことです。私はそのところから話を進めることと致しましょう。


1節に「占星術の学者たちが東の方からエルサレムに来て」とあります。

口語訳では「東からきた博士たち」と訳され、文語訳は「東の博士たち」、岩波版「東方の占星術の学者たちがエルサレムに現れて」と訳しました。この博士たち、学者たちを表すもとの言葉は複数形のマゴイで、単数はマゴスとなります。

辞書には、魔法使い、魔術師を最初にあげています。その次に、メディアの一部族マゴイに属する人、世襲的に神に仕える階級、ペルシャ宗教に帰化したがなお彼ら特有の古い宗教習慣を持ち、占星術や夢占いその他の技術によって知られていた。「マゴイ族の人」、「マゴス」。メディアは、ほぼ今日のイランと重なります。その東はペルシャ人の国、西にはアルメニア、バビロニア、リディアを含みます。カスピ海の南あたりが本来の地です。

マゴイは、ギリシャの歴史家ヘロドトスによれば(1:101,132)元来メディア王国を支配する一つの部族である、とされます。彼らは、ペルシャ人を追放してメディアの王国を回復させようとして、失敗した人々の末裔。その後彼らは、野望を棄て祭司の種族となったそうです。丁度イスラエルのレビ族のようです。マゴイは、祭司となり、彼らの一人が立ち会わなければ、いけにえを捧げることはできなかったようです。

またマゴイは、哲学、薬学、天文学に通じていました。この天文学は、当時最高の学問と認められ、翻訳では占星術となったものです。天体の運行を観察し、分析してその中から次の動きを予測しました。論理的、合理的な秩序を見出しました。


この学者たちの前で、大きな星が昇りました。彼らにとってこの星の光は、ユダヤの地に王がお生まれになることを示し、その道筋を指し示すものでした。星の導きに身を委ねて旅に出ました。恐らく大きなキャラヴァンを組み、護衛を連れたものだったでしょう。

この学者たちは、恐るべき人々です。と言うのは、彼らは自分の民族伝来の宗教専門家です。ところが、遠くユダヤの地に生まれるユダヤ人の王を拝するためにやって来たのです。しかも高価な宝を携え、危険を冒して旅をしました。単なる好奇心ではありません。何かもっと生命的なものを求めて旅をしてきたように考えられてなりません。

一体何があったのでしょうか。何が彼らを駆り立てたのでしょうか。

この時代は、どのような背景を持っていたでしょうか。

世界を支配しているのはローマ帝国です。最初この国は、自国の国境を守ることに専念していましたが、やがて防衛のためとして国境を広げて行きました。自国の安全・平和のために他国を戦場に選びました。帝国主義、植民地主義による領土拡張です。それでも、ローマの平和を味わう民族もありました。支配されている民族も一応平和でした。しかし自尊心の強い民族は独立を求め、ローマに戦いを挑みました。ユダヤ戦争までおよそ70年、ユダヤは民族自決を求めながらも、ローマとイドマヤ人ヘロデの支配を受けていました。

この時代、ローマ帝国は多くの優れた歴史家を有していました。

スヴェトニウスは、『東方諸国一帯には昔から揺るがぬ信仰があった。それは、その頃ユダヤから世界を支配する者が出現するということであった』と書きます(ヴェスパシアヌス皇帝の生涯4:5)。

タキトゥスは、『人々が固く信じていたことは・・・その頃東の国が強力になり、ユダヤから出た支配者が全世界を包括する帝国を築くということである』と書いています(歴史5:13)。

ユダヤの歴史家フラヴィウス・ヨセフスは、『その頃。彼らの国から出た者が人間の住む大地を統治するという信仰を持っていた。』と記します(ユダヤ戦史6:5)。

ヨセフスは、ユダヤ独立戦争のときに、兵士を指揮するユダヤ側の将軍の一人でした。ローマ軍に降伏して、フラヴィウス・ティトゥス総司令官に認められ、その名を与えられます。その後ティトゥス将軍はローマ皇帝に選ばれ、ヴェスパシアヌス皇帝となりました。

ヨセフスは、ユダヤの民が、聖書に基づいて全世界を支配する統治者を待望していたことを告げています。

この三人は、単なるユダヤの王の誕生ではなく、全世界を統べ治める方の出現を人々が確信している、と語ります。ユダヤの王はこの当時、大王と称するヘロデでした。その大王を越える王が生まれるのです。何処の国、民族も自分たちが誰に対しても服属しない、自由で、誰からも搾取されない世界を求めていました。それは、全く新しい国家の姿になります。東方から来た学者たちは、この新しい王を礼拝しようとしています。

東から来た人々をペルシャ人と考えるなら、ギリシャ・ローマによって自らの大帝国を倒され、その支配下にありながら、大帝国の復活を求める人々となるでしょう。

また、メディアの一氏族と考えるなら、支配する階級から支配される氏族へ落とされた恨みをもつ人々、権力への復活を願う人たちとなる。

権力を信奉する者がその座を失うことは、たいへん悲惨なことです。周囲の者から見放され、野垂れ死にするまで権力の座にしがみつきたくなるらしい。

この学者たちは、ユダヤ人の王としてお生まれになった方を、星の導きにより探し求めて、はるばる旅をしてきました。そして、この方によって全世界が新たな王国になることを望みました。
決して自分たちの王国の復活や、権力の回復を願って旅をしてきたのではありません。新たな王国への願いは、彼らの捧げ物に表れています。

三種の宝、黄金、乳香、没薬を捧げた、とあります。このことから博士は三人、と言われるようになりました。然し、実際何人であったか、不明です。その名は伝説となっています。カスパル、メルキオール、バルタザール。もう一人、遅れて来た博士がいました。その名はアルタバン。ヘンリー・ヴァン・ダイクは『もう一人の博士―アルタバン物語』を書きました。

『星に導かれ、イエス様に会いに行った博士は四人いた。四人目の博士アルタバンは、イエス様のために贈り物の宝石を携えて行ったが、その時イエス様に会うことができなかった。そこからアルタバンのイエス様に会うための新たな旅が始まった。
30年の間旅の途中贈り物は困っている人に分けて行き、手元に残ったのはついにひとつになった。
そこへイエスが十字架にかかると噂を聞いたアルタバンは、残された最後の贈り物を携えゴルゴダの丘へ向かうが・・・』

この本は、教会の書棚にあるはずです。一度、お読みになられると宜しいと感じています。私もだいぶ忘れました。また読んだほうが良さそうです。


元に戻しましょう。黄金これは「オフルの金」(列王上9:28)が有名ですが、イザヤ60:6には、シバの人々が黄金、乳香を携えて来る、と記されています。王の冠りの飾りとする、と歌われますが、その素材そのものとなります。王を象徴。

乳香は、南アラビアとソマリランドを原産地とする白色の樹脂で、さまざまの供物と共に、香炉で焚いて神に捧げられます。祭司を象徴。

没薬はアラビア産ミルラの木の樹脂から採取される香高く、苦味のある深紅の樹脂で、広く香料、医薬品として用いられました。受難を象徴。

新しい王国は、神自ら、その愛をもって治める国です。従来の王国とは全く違います。

東方の学者先生たちのクリスマスは、私たちに何を教えるでしょうか。

先ず、クリスマスの奥義は民族や国家の枠を超えて示されることです。

彼らの学問・知識は新しい信仰の世界を開きました。

伝来の宗教を超えて、全世界と共にまことの神を見ることが出来ました。

彼らは進むべき道を示されました。帰る道も示されています。

主はいつでも、私たちと共にいて、御守りくださいます。

どのような人も、真剣に求めるなら見出し、出会うことが出来ます。

あなたが一歩進み出るなら、主は二歩近寄ってくださいます。


話が前後して申し訳ありませんが、ヘロデのことを少しだけ。

ヘロデ大王は、学者たちが、ユダヤの王としてお生まれになる方を探し求めている、と聴き大いに不安になりました。すでに自分の身内であっても王位を窺がうと考えた者たちを殺してきました。今回も殺意を起こしています。

律法学者、祭司長たちに、メシア・キリストの誕生は何処の土地になるか、調べさせます。旧約聖書ミカ書5:1(口語訳では5:2)の預言にあるようにベトレヘムでお生まれになるはずだ、との答えがありました。彼らはこのお方を礼拝しに往こうとはしません。

彼らは折角の知識を生かそうとはしませんでした。信仰へと成長しませんでした。

どれ程聖書を知っていても、それが信仰に結び付かないなら、主イエスにお会いすることはできません。
聖書は、主イエスが眠りたもう飼い葉桶です。聖書を読み、学び、信仰から信仰へと進みたいものです。

最後にマタイ福音書について

これはユダヤ人のための福音書、と呼ばれます。マタイは旧約の預言が如何に実現したか、繰り返し語ります。ところがその始まりの部分で、福音は異邦人によって最初に受け入れられ、異邦人が祝福された、と語ります。ユダヤ人の間では衝撃が走るでしょう。

しかし、決してユダヤ人排除を目指すものではありません。神の御子はベトレヘムにお生まれになった。ダビデ王の末裔として、神のお約束の救い主。

すべての民は、信じるなら、これを自らの救いとして喜ぶことができる、と語ります。

私たちも信じる者とされたことを喜びましょう。